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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10546号 判決 1990年6月26日

原告 藤田とみ子 外一八名

右原告ら一九名訴訟代理人弁護士 吉村節也

同 合田勝義

被告 三井農林株式会社

右代表者代表取締役 篠原寛

右訴訟代理人弁護士 榎本昭

右訴訟復代理人弁護士 福島健二

同 木本三郎

同 神谷恵子

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的)

被告は、

原告藤田とみ子に対し、金一三二〇万円

同井下田克己に対し、金一三七〇万円

同都築知明に対し、金四二三万円

同都築元子に対し、金九八七万円

同細田徳に対し、金一四一〇万円

同大橋奈加子に対し、金一四一〇万円

同岡本和己に対し、金一七六〇万円

同有限会社家本興産に対し、金一四三〇万円

同中島孝に対し、金八五八万円

同中島芳子に対し、金五七二万円

同宮田清に対し、金一四五〇万円

同佐野昭に対し、金一四五〇万円

同株式会社藤製作所に対し、金一四五〇万円

同武蔵塗料株式会社に対し、金一八〇〇万円

同村田仁志に対し、金一四九〇万円

同株式会社ニュー千葉に対し、金一八二〇万円

同株式会社やまなかに対し、金一四九〇万円

同黒羽誠に対し、金一五一〇万円

同株式会社永谷園本舗に対し、金一五三〇万円

及び右各金員に対する昭和五八年一〇月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を各原告に支払え。

2  (予備的)

被告は、

原告藤田とみ子に対し、金五二八万円

同井下田克己に対し、金五四八万円

同都築知明に対し、金一七三万四三〇〇円

同都築元子に対し、金四〇四万六七〇〇円

同細田徳に対し、金五六四万円

同大橋奈加子に対し、金五四九万九〇〇〇円

同岡本和己に対し、金七二一万六〇〇〇円

同有限会社家本興産に対し、金五八六万三〇〇〇円

同中島孝に対し、金三四三万二〇〇〇円

同中島芳子に対し、金二二八万八〇〇〇円

同宮田清に対し、金五九四万五〇〇〇円

同佐野昭に対し、金五八〇万円

同株式会社藤製作所に対し、金五六五万五〇〇〇円

同武蔵塗料株式会社に対し、金七二〇万円

同村田仁志に対し、金五八一万一〇〇〇円

同株式会社ニュー千葉に対し、金七〇九万八〇〇〇円

同株式会社やまなかに対し、金五八一万一〇〇〇円

同黒羽誠に対し、金五八八万九〇〇〇円

同株式会社永谷園本舗に対し、金五九六万七〇〇〇円

及び右各金員に対する昭和六二年一一月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を各原告に支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  請求の趣旨2項の請求の予備的な追加は、訴訟手続きを著しく遅滞させるものであるからこれを許さざる旨の決定を求める。

第二当事者の主張

一  主位的請求関係

1  請求原因

(1)  被告は、建築業、不動産業を目的とする株式会社である。

(2)  被告は、昭和五五年七月、千葉県夷隅郡御宿町字南松原八四七番一宅地九八三・〇八平方メートル(以下「本件敷地」という。)上に、鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一二階建(建築面積五六四・八六平方メートル、延床面積五八五四・六四平方メートル、建物の高さ三五・三〇メートル)のリゾートマンション「御宿シーハイツ」(以下「本件マンション」という。)を建築し、所有していた。

(3)  原告らは、昭和五五年七月一〇日、被告から左記のとおり本件マンションの建物区分所有権及び本件敷地所有権の持分を購入し、その代金を支払った。

(買主名)   (部屋番号)   (価格)

藤田とみ子    三〇七号  一三二〇万円

井下田克巳    四〇七号  一三七〇万円

都築知明     六〇六号  一四一〇万円

(持分3/10)

都築元子(持分7/10)

細田徳      六〇七号  一四一〇万円

大橋奈加子    六〇八号  一四一〇万円

岡本和己     七〇五号  一七六〇万円

有限会社家本興産 七〇六号  一四三〇万円

中島孝      七〇七号  一四三〇万円

(持分3/5)

中島芳子(持分2/5)

宮田清      八〇六号  一四五〇万円

佐野昭      八〇七号  一四五〇万円

(株)藤製作所  八〇八号  一四五〇万円

武蔵塗料(株)  九〇五号  一八〇〇万円

村田仁志     九〇九号  一四九〇万円

(株)ニュー千葉 一〇〇五号 一八二〇万円

(株)やまなか  一〇〇八号 一四九〇万円

黒羽誠      一一〇八号 一五一〇万円

(株)永谷園本舗 一二〇五号 一五三〇万円

(4)  右売買契約(以下「本件売買契約」ともいう。)は錯誤によるものである。

<1> 被告は、本件売買契約締結に際し、本件マンションにつき、「御宿最後の高層マンションです。御宿町の条例により今後四階以上のリゾートマンションは建てられなくなりました。御宿シーハイツの眺望のよさ、日照のよさは将来とも維持できる」旨説明した。

<2> 原告らは、本件売買契約当時、被告の右説明内容を真実であると信じた。

<3> しかし、被告の右説明は真実に反し、同説明にかかる御宿町の条例はなく、本件マンションについて、眺望のよさ、日照のよさを維持するための方策は何ら講じられていなかった。

<4> 原告らは、被告に対し、本件売買契約に際し、被告の説明にかかる右条例があり、御宿シーハイツの眺望のよさ、日照のよさが将来も維持されるから本件マンションを買う旨を述べた。

よって、本件売買契約における原告らの意思表示には、その重要な部分に錯誤があるから、本件売買契約は無効である。

(5)  本件売買契約は詐欺によるものである。

<1> 被告は、原告らに対し、本件売買契約の締結に際し、前記(4) <1>記載の説明をして原告らを欺き、その旨誤信させた上、右契約を締結させた。

<2> 原告らは、被告に対し、昭和五九年七月三日、本件第五回口頭弁論において、右契約における買受けの意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(6)  本件マンションには、環境瑕疵がある。

<1> 被告は、本件売買契約締結にあたり、原告らに対し、本件マンションの建築完成時の眺望及び日照が将来も維持できることを保証した。

<2> その後、昭和五八年七月頃、本件マンションの東南方向にある千葉県夷隅郡御宿町新町字赤樽八一六番二三の宅地上に鉄骨鉄筋コンクリート造地上一四階塔屋二階建リゾートマンション「シーサイドパレス御宿」が建築され、本件マンションの眺望と日照は大幅に損なわれた。

<3> 前記(5) <2>同旨

よって、原告らは、被告に対し、前記各売買代金及びこれに対する履行期後である昭和五八年一〇月二三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1) 乃至(3) の各事実は認める。

(2)  同(4) <1>の事実は否認する。

本件マンションの眺望のよさ及び日照のよさが将来永久に維持されることを保証は勿論のこと説明もしたことはない。

しかし、被告が本件マンションを分譲するに際し、セールストークとして、原告らに対し、「南房総国定公園の景観を一望できる本件マンションの眺望及び日照のよさ」を強調し、「今後御宿町の建築規制の強化によって本件マンション付近には高層建築物は建築できなくなる」と広告したことはある。

同<2>の事実は否認する。

同<3>の事実は認める。

同<4>の事実は否認する。

(3)  同(5) <1>の事実は否認する。

(4)  同(6) <1>の事実は否認する。

同<2>の事実は認める。

二  予備的請求関係

1  請求原因

(1)  (不法行為)

<1> 前記主位的請求の請求原因(4) <1>項同旨

<2> 被告は、前項の説明をする際、御宿町には四階以上の建物を禁止する条例その他法的拘束力をもつ法令がないことを知っていた。

よって、被告の前記説明は、売買契約に伴う付随的注意義務又は信義則に反する行為である。

<3> 損害の発生

前記「シーサイドパレス御宿」が建築されたことにより、原告らの所有する本件マンションの建物区分所有権及び本件敷地所有権の持分の各価格は、別紙損失相当額算定表<略>の損失相当額(I)欄記載のとおり下落した。

<4> 因果関係

前項の価格の下落は、右<1>項記載の被告の行為によるものである。

(2)  (環境瑕疵)

<1> 主位的請求の請求原因(6) <1>、<2>及び<3>項同旨

<2> 予備的請求の請求原因(1) <3>項同旨

<3> 前項の損害は、右瑕疵によるものである。

よって、原告らは、主位的請求が認められないときは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償または、民法五七〇条、五六六条に基づく損害賠償として、右損害額の内前記請求の趣旨2項記載の各金員及びこれに対する履行期後の昭和六二年一一月一一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1) <2>の事実は否認する。

被告に、第三者の所有地に関する建築規制についてまで、調査解明、告知説明する義務が、信義則上課せられているはずがない。

同<3>の事実は不知。

同<4>の事実は否認する。

本件マンションの眺望及び日照の良さを奪ったのは、「シーサイドパレス御宿」を建築した者であって、被告ではないのであるから、被告の説明と、原告らが被ったと主張している損害との間に、因果関係を認めるのは相当ではない。

(2)  同(2) <3>の事実は否認する。

3  抗弁

(1)  時効

<1> 原告らの主張によると、原告らが、被告の不法行為による損害の発生及び加害者を知ったのは、遅くとも昭和五七年七月一〇日である。

<2> 右昭和五七年七月一〇日から起算して三年が経過した。

<3> 被告は、右時効を援用する。

(2)  除斥期間

<1> 原告らは、遅くとも、昭和五七年七月一〇日には原告らの主張する環境瑕疵の存在を知った。

<2> 右昭和五七年七月一〇日から起算して一年が経過した。

4  抗弁に対する認否

(1)  抗弁(1) <1>の事実は否認する。

原告らが損害の発生を確定的に知ったのは、「シーサイドパレス御宿」の完成した昭和五八年七月である。

原告らが加害者を知ったのは、訴外君塚猛、同株式会社君塚産業及び同東武建設株式会社を相手方とする「シーサイドパレス御宿」の建築工事禁止仮処分申請却下決定に対する抗告事件(東京高等裁判所昭和五七年(ヲ)第八二七号)においてなされた抗告棄却の決定が原告らに送達された昭和五八年五月一〇日である。

よって、時効の始期は、昭和五八年七月か同年五月一〇日である。

(2)  同(2) <1>の事実は否認する。

原告らが本件環境瑕疵の存在を知ったのは、昭和五八年五月一〇日である。

5  再抗弁

(1)  (時効の中断)

<1> 原告らは、昭和五八年一〇月七日、東京地方裁判所に対し、前記本件主位的請求関係を原因とする訴を提起した。

<2> 本件の主位的請求にかかる権利主張は、予備的請求にかかる権利主張(権利行使・権利実現)の一態様、一手段と見られる関係にある。

よって、主位的請求の訴が提起されたことをもって、予備的請求に関しても「裁判上の請求」(民法一四九条)、これに準ずるもの、または「裁判上の催告」がなされたものとみなすべきである。

(2)  (除斥期間の未経過)

原告らは、被告に対し、昭和五七年七月二日及び同月二三日にそれぞれ到達した書面により、本件瑕疵担保責任に基づく権利を行使する旨の通告をし、昭和五八年一〇月七日、東京地方裁判所に対し、本件訴訟を提起した。

6  再抗弁に対する否認

再抗弁(1) <1>の事実は認め、同<2>の事実は否認する。

原告らが、予備的追加的に請求している不法行為に基づく損害賠償請求と主位的請求とは明らかに訴訟物が異なる。また、右不法行為に基づく損害賠償請求は、主位的請求の先決関係、前提問題ではない。

従って、主位的請求の訴の提起をもって予備的請求の時効の中断事由と解すべきではない。

第三証拠<略>

理由

一  主位的請求関係

1  請求原因(1) (被告の目的)、(2) 及び(3) (本件売買契約の締結)の各事実については、当事者間に争いがない。

2  請求原因(4) <1>に関して、被告が本件マンションを分譲するに際し、原告らに「南房総国定公園の景観を一望できる本件マンションの眺望及び日照のよさ」を強調し、「今後御宿町の建築規制の強化によって本件マンション付近には高層建築物は建築できなくなる」と広告したことは被告の認めるところである。

<証拠略>によれば、被告から本件マンションの販売を委託されていた訴外日東住宅販売株式会社(現在の商号は「三井農林住宅販売株式会社」、以下「日東住宅」という。)の社員は、原告らに対して本件マンションの購入を勧めるに際に、本件マンションの眺望及び日照の良さの外に、「御宿町の条例により今後四階以上の建物は建てられなくなりました。」、「本件マンションはこの地区最後の高層リゾートマンションです」という旨の説明をしたことが認められる。

<証拠略>によれば、被告が新聞紙上に掲載した本件マンションの広告には「全室窓辺に海を眺める」との記載がなされていたことが認められる。

<証拠略>によれば、被告が本件マンションの宣伝用に作成して配布したカタログ上には「全戸海が見える」との記載がなされていたことが認められる。

<証拠略>によれば、日東住宅が原告らに送付した本件マンションの宣伝を内容とする書簡の文面には「あの地区最後の高層リゾートマンションを(御宿地区条例に依り四階以上のビルは建てられなくなりました)」との記載がなされていたことが認められる。

<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、日東住宅の社員は、本件マンションの購入を勧誘する際に、原告らの一部に対して、「御宿町宅地開発等に関する指導要領」と題する書面の写しに、手書きで「御宿町の条例に依り今後四階以上のリゾートマンションは建てられなくなりました。(最後のリゾートマンションです)」と記入したものを示したことが認められる。

以上の事実から、請求原因(4) <2>の事実(原告らが、右広告等の記載内容及び日東住宅の社員の説明内容を真実であると考えたこと)が推認される。

請求原因(4) <3>の事実(前記条例の不存在、本件マンションについて、建築時の眺望・日照をそのまま維持するための方策の不存在)については当事者間に争いのないところであるから、この点に関しては、原告らに錯誤が認められることになる。

ところで、本件売買契約の対象は、本件マンションの建物区分所有権と本件敷地所有権の持分であって、この点に関しては原告に錯誤はない。

また、この区分所有権者が享受し得る日照及び眺望は、本質的には周囲の状況の変化によって変化することを余儀なくされるものであって、これを独占的、排他的に支配し、享受し得る利益として法的保護の対象とすることは不可能なものであると解される。

日照及び眺望を享受し得る利益が、人間の生活上少なからぬ価値を有することから、経済的価値を有するものとしてとらえることがあるが、この場合でも、土地及び建物の所有ないしは占有と密接に結びついた生活利益として、土地及び建物の経済的価値を評価する際にその一つの要素となり得るというに止まり、これだけを他と切り離して独自に評価の対象となし得るということではないと解される。

土地及び建物を売買する際に、日照及び眺望を享受し得る利益が経済的価値を有している場合には、当然これは代金額に反映されているはずであるが、右利益の前記本質上、この経済的価値は、通常、周辺における客観的状況の変化によっておのずから変容ないし制約を被らざるをえないものであることを前提とした価値として評価され、その限りで代金額に反映されているものと解され、特段の事情でもない限り、このような変化を排除し得る権能をもっていることを前提とした価値として評価され、代金額に反映されるとは考えられない。

日照はともかく、こと眺望に関しては、私人が、私人に対して、不変の(または、一定の水準の)眺望の利益を将来にわたって保証することを確約することは、物理的にも、経済的にも、不可能であることが誰の目にも明らかであると解されるし、眺望の保護を目的とする公法的規制が皆無に等しい現時点においては、右特段の事情は、まず、考え難いところである。

この意味で本件においても、売買の対象物の中に、本件マンションの建物区分所有権及び本件敷地所有権の持分の外に、それとは別に独自に存在し得る法的権利として一定の水準の「日照」(権)及び「眺望」(権)が含まれていたと解することはできないし、被告が提示した代金額の中に、このようなものに対する経済的利益としての評価に相当する部分が含まれているとは認められない。

そして、右代金額の中に、本件売買契約締結時における本件マンションの日照及び眺望の経済的価値に対する評価に相当するものが含まれていたとしても、この価値は、この日照及び眺望が、将来、周囲の状況の変化によって変化することを余儀なくされるものであることを前提としたものであり、これがそのようなものとして評価されてその限りで代金額に含まれていると解される。

また、被告は、例え錯誤に基づくものであっても、原告らが、右一定の水準の「日照」(権)及び「眺望」(権)が確保できることを前提に本件売買に応じたということについて、(原告らがこの前提を特に表示でもしない限り、)契約締結時に認識できたであろうとは認められない。

そうすると、前記原告らの錯誤は、意思表示の内容の錯誤ではなく、本件売買契約を締結する動機の錯誤であると解すべきである。

原告らは、本件売買契約に際し、眺望及び日照が建築時のまま維持されるものとして売買の対象とする旨被告に対して表示したと主張(請求原因(4) <4>)するが、明示的にも、黙示的にも、かかる表示をした事実を認めるに足る証拠はない。

よって、前記錯誤により、本件売買契約が無効であるとする原告らの主張は失当である。

3  前記のように、本件マンションの眺望及び日照に関して、日東住宅の社員が原告らに対して行った説明並びに被告及び日東住宅作成の広告等の記載の各内容には事実と異なるものが含まれていたことになるが、この点に関する説明等を、被告が原告らを欺いて売買契約を締結させようとして行ったという原告らの主張事実(請求原因(5) <1>)については、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

(右説明及び記載内容が、原告らに、本件売買契約を締結する意思を固めさせる大きな誘因となり得る事項に関するものであることはあきらかであるが、<証拠略>によれば、被告は本件マンションを建築する際に、この建築により自然環境が破壊される事等を恐れた御宿町から千葉地方裁判所一宮支部に対して、本件マンションの建築禁止を求める仮処分の申立てをなされたことが認められ、<証拠略>によれば、御宿町宅地開発等に関する指導要領九条-環境保全-(6) 項には、「自然美観保護のために、御宿町内のうち、国道百二十八号線と町道海老塚、赤樽線並にこれと接続する岩和田漁港関連道路と清水川に区分された区域については、高層建築物の建築を制限するよう特に指導するものとする。」との規定があることが認められ、<証拠略>によれば、これらのことから、本件マンションの分譲業務を担当した被告の開発部分譲住宅課の社員は、当時、御宿町のうち本件マンションの所在する地区については、御宿町が環境保全のために建築規制を強化し、四階以上の建物については、事前協議の段階で建築に反対する態度で臨む方針であるとの認識を有していたことが認められるので、右説明及び記載内容に事実と異なる事が含まれていて、これを日東住宅の社員らが宣伝材料として用いたということだけで、直ちに、同社員らに、原告らを欺罔しようとする意思があったと推認することはできず、他には、かかる意思の存在を認めるに足る事情の存在を認めるに足る証拠がないからである。)

よって、被告の詐欺を理由に本件売買契約を取り消し得るとする原告らの主張も失当である。

4  本件マンションの眺望と日照の利益が、「シーサイドパレス御宿」が建築されたことにより大幅に損なわれたこと(請求原因(6) <2>)は、当事者間に争いがない。原告らは、被告が、本件売買契約締結にあたり、原告らに対し、売買目的物の一種の性状として、本件マンションの建築完成時の眺望及び日照が将来も維持できることを保証したと主張(請求原因(6) <1>)するが、日東住宅の社員らが前記説明をしたことをもって、直ちに、売買契約の一方の当事者である売主としての立場で被告が、本件マンションの(法的?)性状を保証する意思を表明したと解することができないのは勿論のこと(発言内容に関して右社員らが被告から与えられている権限の問題が吟味されなくてはならないから。)被告にはそもそもかかる性状に関して保証を成しうる能力がない(理由は前述べたとおり)し、このことは被告自身充分に認識しているはずであるから、特段の事情がない限り、被告がこのような保証をする(または、その権限を日東住宅の社員に授与する)とは認め難いところ、本件においてこの特段の事情に当たるものは認められないから、請求原因(6) <1>の事実は認められない。

よって、本件マンションには、隠れた瑕疵があるとの原告らの主張は失当である。

5  以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告らの主位的請求は理由がない。

二  訴えの変更(予備的追加)については、追加を求める請求の主な原因が、従来の請求の原因と共通であるので、追加された請求を審理する為に格別時間を要する証拠調べが必要になるとは解されない。

よって、訴訟手続きを著しく遅滞させるものとして右予備的な請求の追加を許さざる旨の決定を求める被告の申立ては認められない。

三  予備的請求関係

1  本件マンションの眺望及び日照に関する前記日東住宅の社員らの誤った説明及び被告ら作成の広告等の誤った記載内容が、原告らを欺いて売買契約を締結させようとの意図に基づいてなされたものであるとは認められないことは前記のとおりである。

しかしながら、右説明及び記載内容は、原告らに本件売買契約の締結を決断させる大きな誘因となり得るものであると解されるから、かかる事柄について説明及び記載をするにつき、事前に充分な調査を尽くすこともなく軽率に行った等、被告の側に過失が認められる場合には、この事により被ったと認められる損害(通常損害として精神的苦痛が考えられる。)については、不法行為に基づく賠償責任が問責されてしかるべきである。

ところで、原告らが、被告の不法行為に基づく損害として主張しているものは、「シーサイドパレス御宿」が建築されたことで減価したとされる原告らの所有する本件マンションの建物区分所有権及び本件敷地所有権の持分の交換価値の減価分である。

この減価は、直接的には、正に「シーサイドパレス御宿」が建築されたことによるものであって、前記説明及び記載がなされたことによるものではない。そして、このことに右説明及び記載が原告らを欺こうとの故意に基づいてなされたものとは認められないこと及び前記の如く、日照及び眺望を享受し得る利益が経済的価値を有する場合、この価値は、本質的に、周辺の状況の変化によっておのずから変容を余儀なくされる不安定なものであることを併せ考えると、本件で原告らの主張する右損害と右説明及び記載がなされたこととの間に因果関係を認めるのは、相当ではない。

よって、本件においては、前記過失の有無などその余の点について判断するまでもなく、不法行為に基づく原告らの損害賠償請求は失当である。

2  本件マンションに原告らの主張する瑕疵が認められないことは、前記のとおりである。

3  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの予備的請求も、理由がない。

四  よって、原告らの請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 北村史雄)

別紙<省略>

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